学長からのメッセージ(第2号2021年9月 就職相談室ニュース 掲載記事)

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2021.10.04(月)

「手」に職持つ人は幸い

NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」(2020年6月2日)で取り上げられて話題になった、五所川原市の
草餅屋 桑田ミサオさん(93歳)をご存知だろうか。いまネットでも詳しく取り上げられているから、ぜひ見てほしい。
私には、その時の彼女の言葉が忘れられない。
 
「母はよく私に『十本の指は、黄金の山だ。この指さえ動かしていれば、食べることに困らない。だから作れるものは何でも覚えておきなさい』と言いました。つくづく母の言葉は本当だと思います。この十本の指を絶えず動かしてきたから今があるのだと思います。……」
 
この言葉が胸に響いたのは、私自身の両親が生きていた時のことを思い出したからだ。人間にとって、働くこと、とりわけ、食べること、食べさせること、そして、病んだ時には、世話(ケア)をする、これは生きていく時の基本中の基本だ。子を養い、看病する、それはまず両親の手指の献身から始まり、営々と伝えられてきたことである。  
今私たちの大学には、看護師、保健師、助産師、管理栄養士といった専門職の道が準備されているが、それらの源泉はみな祖先や親たちの指のわざにさかのぼる。時代は変化し、生活のすべてにわたって機械化やサイバー化が進んできたが、それらを上手に利用しつつ、「十本の指」をぞんぶんに生かして看護のわざ、栄養のわざを行うなら、どこにもない独特の味わいあるわざが人々のこころに手渡されるにちがいない。
 
新約聖書によると、イエスは世に出るまでは大工(石工)さんであったし、偉大な使徒パウロは、宣教者になってからも天幕(テント)造りの職人であった。二人とも「手に職持つ人」だったのだ。
 
天使大学 学長 田畑邦治