2007.5月 そしゃく(咀嚼)の効用~あなたは食べ物をよく噛んでいますか?~
おいしく食べるには、歯は何本必要なのでしょうか?
私たちが食べ物をおいしく食べられることは大きな喜びです。歯や歯ぐきが痛いときは、ふだん食べている硬いものが食べられなくなったり、酸っぱいものが歯ぐきにしみたりするなど、食べられるものが制限されることに気づきます。
人間の歯はふつうは28本で、親知らずが全部生えると32本になります。ところが、歯周病や虫歯などによって歯の健康状態が悪くなったり、歯を失ったりすると、そしゃく力(食べ物を噛む力)が弱まってしまいます。
下の表は、食べ物を噛むために必要な歯の数と、食品との関係を大まかに示しています。硬いものは18本~28本の歯があれば食べられます。いくつになっても自分の歯で食べたい物を食べられる生活を送るために「8020運動(ハチマルニイマル運動)」が提唱されました。これは、「80歳になっても歯を20本以上保ちましょう」というもので、1987年から厚生労働省と日本歯科医師会が始めました。実際に80歳を超えて20本以上の歯を持つ人の多くは、毎日元気に暮らしていることがわかっています。
| 歯の数 | 食品および料理(例) | 硬さの度合い |
|---|---|---|
| 0-5本 | なすの煮つけ、うどん、お粥、とうふ、バナナ、プリン | やわらかいもの |
| 6-17本 | きんぴらごぼう、れんこん、かまぼこ、おこわ、せんべい | 中くらいの硬さ |
| 18-28本 | たこ、するめいか、フランスパン、たくあん |
歯ごたえのある硬いもの |
しかし、実際に歯が失われそしゃく力が衰えるといろいろな問題が起きてきます。そこで、次は「そしゃく」の仕組みについてお話します。
そしゃくのはたらき
1.そしゃくの準備段階
右の図は、そしゃくの準備段階の様子を示しています。食べ物が口に入る前に、まず脳に食べ物の情報が伝えられます。
第一段階は、食べ物を「目で見る」、「匂いを嗅ぐ」、「唇に触れる」ことで
→どんな食べ物かを感知するための情報が、脳に伝えられます。
第二段階は、脳からの指令が、歯や口腔器官に送られることで
→その食べ物にもっとも適した噛み方が決定されます。
例えば、
・プリンなど柔らかいものは → 舌で上あごへ押しつけて砕く。
・たくあんなど硬いものは → 奥歯でしっかり噛む。
2.そしゃくの実際
歯の根の回りを取り囲む組織には、神経が集中しています。その神経を通じて、噛みながら刻々と変化する食べ物の形状が脳に伝えられ、それに合った噛み方をしながらそしゃくを継続します。つまり噛むことは、末端(口腔)から中枢(脳)に至るまで、さまざまな器官がかかわっています。さらに、そしゃくすることにより、唾液腺や消化器官から多く物質(ホルモンや生命活動を支える物質)が分泌されます。このことは、そしゃくは単に消化吸収を促すだけではなく、吸収された栄養物質の代謝、人間の情動行動まで関係しています。例えば、食事の場面を想定すると、そしゃくはさまざまな身体機能と結びついていることがわかります。
食事の場面
このように、そしゃくによって脳が刺激され、血液の流れがよくなることで脳が活性化するので、記憶力の向上にもつながります。また、唾液中の成分には消化酵素以外にも、以下のような成分が含まれています。
- ●パロチン … 唾液腺ホルモンの一つ。血液の中に送り出されて、骨や筋肉の衰えを防ぎ、肌のつやを保ちます。
- ●ムチン … 口やのどの粘膜を保護します。
- ●リゾチーム … 殺菌作用を持つ酵素で、侵入してくる細菌と闘います。
- ●ペルオキシターゼ … この酵素は、がん細胞をつくる酵素を不活性化する優れた働きがあります。
一口で何回くらい噛んでいますか?
私たちが食べ物を食べる時、一口で噛む回数は、やわらかいものは10回以上、ふつうの硬さのものは20回以上、硬いものは30回くらいが望ましいとされています。幼児期から噛む回数が少なかったり、早食いの習慣があると、噛む能力が衰える、あごが充分に発達しない、歯ぐきが変形する、歯並びが悪い、噛み合わせがうまくできない、などの問題が生じる場合があります。また、硬いものを噛むことは、物理的に食べかすや歯石を少なくし、歯の健康に良い影響を及ぼします。
最近、硬いものを食べられない子供が増えてきているといわれています。ある調査では、3歳児で硬いものが食べられない割合は1985年には3.3%なのに対し、1995年には約2倍に増えていました(厚生省乳児栄養調査)。そしゃく力の発達は、離乳期から2歳ごろまでといわれているので、早い時期から食品の選び方や調理方法の配慮が必要です。
そしゃく力を発達させる食材
さまざまな食品のなかで、ナッツ、木の実など硬いものを食べるときは、自然と噛む回数が増えますが、その他にも、そしゃく力を発達させる食品として食物繊維の多いものがあげられます。さらに食物繊維は、消化管内で水分を吸収して腸管を刺激するので、便の量を増やしたり、腸管のはたらきを活発にします。食物繊維の多い食材は、野菜、海藻、きのこが代表的です。そこで、今月はそしゃく力を高める食材を取り入れた料理を紹介します。
ヤリイカときのこの中華風香り焼き
材料(2人分)
- ヤリイカ・・・100g
- まいたけ・・・100g
- しいたけ・・・40g
- 長ネギ ・・・100g
- ごま油・・・小さじ1杯
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A だし正油・・・1/4カップ水・・・1/4カップ みりん・・・1/4カップ 一味唐辛子・・・少々 |
作り方:
- 小鍋にAを合わせ、ひと煮立ちさせ、合わせ調味料を作る。
- イカは皮付きのまま、胴の部分は1cmの輪切りに、他は食べやすい大きさに切る。
- まいたけは、食べやすい大きさにさく。しいたけは石づきを切り落とし半分に切る。
- ねぎは4cmくらいのぶつ切りにする。
- フライパンにゴマ油をしき熱し、イカ、まいたけ、しいたけ、ねぎを焼き、焼けたものから順に1の合わせ調味料に浸していく。20分くらい置いて味をなじませる。
参考文献:
- 山崎文雄、かしこい食べ方、建学社、2000
- 藤沢良知、子供の心と体を育てる食事学、第一出版、2002
- 足立巳幸 他、65歳からの食卓、元気力は身近な工夫から、NHK出版、2004
- 安保徹 監修、安保徹の食べる免疫力、世界文化社、2005
- 柴田博 他、高齢者の食生活を考える、(財)日本食肉食費総合センター、2006

